長い航海を経て、ついに北極圏に入り、ノルウェーのてっぺんまでやってきた。ここにはノースケープという、ノルウェー最北端を示すモニュメントがある。
朝着いて撮影のスタンバイをしていると、地図を配りに来た女性が現れ、地図を一枚もらった。
まるで花びらのような綺麗な形をした島だ。到着するまで、この場所が島である事を知らなかった。

起伏が激しく、地面の表面もゴツゴツとしている。
撮影が終わってミュージアムに行くと、いつからこの地に人が住み着いたのか、どうやって人は暮らして来たのかが書いてあり、非常に興味深い。
どうやらこの一帯の海は”Rich sea”と呼ばれる程魚介類に恵まれている場所で、ノルウェーサーモンを始めとした様々な魚介が採れるそうだ。
港の入り口を歩くとすぐに魚が干してあった。この島の大切な産業の一つ。

この日は他のクルーズ船もいくつか来ていて、俺の乗るクルーズ船jは残念ながら港に停泊する事が出来なかった。
どうするのかというと、船は港から少し離れた所に停泊し、テンダーという緊急事態の時に使用する小舟を使って港へ移動するのだ。
この場所は14日間の船の旅のハイライトに当たり、殆どのゲストが船を降りるため、クルーは残念ながら船を降りる事は許されない。ただし、フォトグラファーは別で、撮影のためにゲストよりも先に港に降りることが出来た!
午前11時、撮影が終了。
本来であればすぐに船に戻り、撮影したデータをラボに届けなければいけないのだが、せっかくのチャンスだから、ノルウェー最北端にある島を少し歩いた。
30分程歩いて、一緒に歩いていたインド人のフォトグラファーガナッシュが言った。
ガナッシュ「そろそろ時間だ、船に戻ろう。」
たった30分だ、まだまだ物足りない。
俺「あと30分だけ歩こう」
ガナッシュは一瞬考える。そして俺にこう言った。
「OK ブラザー、お前のメモリーカードを俺に渡せ。俺が二人分ラボに届けるから、お前は気が済むまでこの島を歩いたら良い。ただし、絶対に出航には遅れるなよ!」
なんという男だ。
彼の口からこの言葉が出る事は、正直全く想像していなかった。
ガナッシュは人との距離感が物凄く近く、フレンドリーでおしゃべりな典型的なインド人だ。
人種で人を差別は出来るだけしたくないが、正直俺はこれまでに沢山のインド人と関わっていながら、友達と呼べるインド人は一人もいなかった。
知り合って会話をして、連絡先を交換したり何度かメッセージしたりする事はあっても、インドに会いに行きたいと思ったり、2人でどこかへ出掛けたり、旅をしたりした事はなかった。
ガナッシュは本当にお喋りで、一緒にいるとたまに放っておいてほしいと思う時がある。なぜか一緒に歩いてると距離も近くて歩きづらい。というか、ちょっとうざったい。笑
そんな時は
「お前喋りすぎだよ!ちょっと一人にさせてくれ!」
「歩くの近けーよ!笑」
などという。彼には思った事をそのまま言いやすい。彼もちゃんと空気を読んでくれる。

彼は人との信頼をとても大切にする男で、いつも相手の気持ちに立って、人が嫌がる事をしないように気を付けてるのが見ていてよく分かる。
多くの日本人がインド人を苦手と感じる理由は、空気を読む文化の日本人に対し、自分の意見や欲求をガンガン出してくるインド人の国民性のギャップに理由があるように感じる。
この船で働く7人のフォトグラファー達はみんな仲良くしているが、特にナミビア人のラビとガナッシュと俺の3人は仲が良くなり、良く行動を共にする。
同僚としても友達としても仲が良くなって、その上でこのような行動をとれる彼を、俺は心から尊敬した。
船に戻る前にスーパーに寄って、ガナッシュの好きなチョコレートを買って渡した。彼は想像以上に喜んでいた。
世界のてっぺんと呼ばれる場所で芽生えた友情。

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