長い間隔離された船での経験を綴るブログ小説、本日は第二弾。
第一話をまだ見ていない方はこちらからご覧ください。
1, 何気ない出発
2, 慣れ親しんだニュージーランド
3, ポリネシア諸島
4, 違和感
5, 突然の旅の終わり宣告
6, ハワイを目前に
7, 下船
8, 先の見えない航海
9, アジア人を乗せた船
10, 隔離
11, 急な宣告
12, 最終地点
今回僕が船に乗船したのは、ニュージーランドの東海岸に位置するタウランガという港だ。タウランガは比較的大きな街で、湾を挟んで反対側にはマウント・マンガヌイという小高い山がある。ニュージーランドと言えば羊の国を想像する人も多いかも知れないが、このマウント・マンガヌイに登ると、そこらを走る羊の姿や、ニュージーランド東海岸の白く長い砂浜のビーチ、真っ青で高い空と、タウランガの街が見下ろせる最高のルックアウトがある。
ニュージーランドの空はとにかく青くて、同じ空なのに高く感じる。
この地の先住民であるマオリの言葉でニュージーランドはAotearoa(アオテアロア)と言い、その意味は”長く白い雲の土地”。その名の通り、ニュージーランドは雲が多く、毎日形も大きさも、感じる感情も違う。

気付くとソラの写真を夢中で毎日撮っていた。この国に住んでいた時は、時間があれば太陽の方向と雲の形を見ては車を走らせ、写真を撮りに走ったものだった。
写真家になりたいという夢は、間違いなくニュージーランドのソラがくれた、僕にとっての人生の宝物だ。
ニュージーランドに住んでいた四年間半の期間、何度も何度も国内を旅した。
ある時は新月の夜、真っ暗な夜のビーチを一人歩き、まるで自分は宇宙にいるように思える程の星空を、一晩中撮影し続けた。
ある時はテントとカメラを担いで山に登り、空に広がる宇宙に朝の光が差して、一秒毎に変化する空の色を一人眺めた。
車という存在は、自分を目的地まで、歩くより何十倍も早いスピードで運んでくれるだけでなく、好きな時に好きな場所で止まって写真を撮ることも、それに必要な重い機材を運ぶことも、寒さから身を守って一晩安眠させてくれる、僕にとっての一番の相棒だった。
今までのニュージーランドの旅と、今回の旅の旅が大きく違う点は、移動手段が”船”のみだという点だった。
僕はすでに船に乗ってノルウェーの最北端・ノールカップがあるホニングスヴォーグや地中海、ギリシャのあるエーゲ海に、大西洋を横断してカリブ海へ行った経験もある。
世界中の海とソラを見てきたが、やはりニュージーランドのソラは特別だ。
ニュージーランドの船の旅では、アオテアロアを海の向こうから眺めることが出来た。考えてみたら、こんな形でこの国を見るのは初めてだった。
やっぱり、この国のソラは良い。
ニュージーランドは
”何もないけど、幸せになるために必要なものは全てある”
国である。人々は本当に穏やかで、すれ違っただけの他人に笑顔を振りまいてくれる。
規模の小さな港が多いニュージーランドでは、クルーズ船が到着すると、街の人達が大いに歓迎してくれる。
町のためにボランティアで案内パンフレットや道案内をしてくれる地元の人がどの港も沢山いた。
それぞれの地域の人たちが、自分たちの住む町が大好きで、良いところを知り尽くしていて、それを船でやってきた私たちに是非見てもらいたい、という気持ちがひしひしと伝わってきた。
アカロアやミルフォードサウンドへ行ったときには、朝早くに外へ出るとイルカがジャンプしていた。近くでそれを見ていたゲストも興奮していた。豊かな自然に身を置くと、気持ちもどんどん豊かになっていくものだ。今の時代、本当に必要なものとは何かを考えさせられる。
時間はあっという間に進み、ニュージーランド・オーストラリアのシーズンは終わり、誰も予測していなかった事態を迎えることとなった3月に入る。
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